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IPコンバーター「Blackmagic 2110 IP Converter 3x3G」を実案件で活用、使用感をレビューします

IPコンバーター「Blackmagic 2110 IP Converter 3x3G」を実案件で活用、使用感をレビューします

オンライン配信
配信機材
BlackmagicDesign
稲垣 有哉

稲垣 有哉

YUYA INAGAKI

PRODUCER / EDITOR / ENGINEER

ライブ配信を実施する際にはカメラで撮影したの映像をスイッチャーに伝送してスイッチングを行ったり、スイッチングした映像をカメラマンが手元でリアルタイムで確認できるように送り返すことが多い。小中規模の会場においてこれらの映像を伝送する際には、カメラとスイッチャーが存在する配信卓の間を一つの映像ごとに多くのHDMIやSDIケーブルを引くことで実現することがほとんどである。

しかしながら、技術の進歩により1本の光ファイバーケーブルで複数の映像系統を長距離かつ双方向に伝送可能なSDI光延長器や、メディアソースをリアルタイムでネットワーク経由で送受信するためのプロトコルであるNDI(Network Device Interface)を活用する方法、さらにはIP(Internet Protocol)ネットワークを介してビデオやオーディオ信号を転送する規格であるSMPTE ST2110を活用する方法など様々な形で映像信号を伝送することが可能になっている。

この記事ではBlackmagic社から2023年に登場した、SDIからST2110ベースのIPとIPからSDIを同時に変換できる双方向コンバーター「Blackmagic 2110 IP Converter 3x3G」について何が実現可能なのか、実際に実案件で組み込んでみて感じた良いポイントと悪いポイントについてレビューしていく。

外観と仕様について

前面はよくある同社のコンバーターのフロントパネルとよく似ておりとてもシンプルな作りになっている。本機の設定を操作するコントロールパネルボタンとスピンコントロールノブと小型のLCDディスプレイが標準装備されている。LCDディスプレイでは本機の各種設定が行えるだけでなく、最大3系統の入力映像と最大3系統の出力映像のリアルタイムモニタリングを行うことが可能だ。

NDIコンバーターなどほとんどのコンバーターにおいて映像の入出力状態のモニタリングができないが、本機では入出力映像、ビデオフォーマット、オーディオ、タイムコードのモニタリングが可能なため、設営に十分な時間が確保が難しい実際の現場でもトラブルが起こった際の原因特定がしやすく非常に助かっている。

背面はPoE+対応の10Gイーサネットポートに加え、最大1080p60までサポートしている3つのSDI INと3つのSDI OUT端子およびリファレンス出力が配置されており、最大16チャンネルのエンベデッドオーディオおよび補助データをサポートしている。

本機から映像を伝送するSDI INにはループアウト端子が3つの入力それぞれについているので、SDI出力が1つしかできないカメラなどで自身が撮影している映像を手元のフィールドモニターに返してあげる際などに役に立つ。

出力する映像信号については本体のメニューパネルから同一ネットワーク上に存在する本機の映像ソースからGUI上で選択することができるようになっている。映像や音声などをIPで制御するための仕様であるNMOS(Network Media Open Specification)が本体に内蔵されているため独自でアプリケーションを開発したり別途ハードウェアを追加する必要がなく、同一ネットワーク内に接続するだけでネットワークに関する知識がなくても簡単に利用開始できるのがポイントだ。

また、本機で採用されているST2110 IPは非圧縮信号なのでNDIなど圧縮信号を利用する伝送する方式と比較して非常にクリアな映像を低遅延で伝送することができる。現状は本機のメニューパネルまたはPCソフトウェアであるBlackmagic Converters Setupで映像ソースの選択を行えるが、今後は同社のSmart Control Proで映像信号を選択することができるようになるようでBlackmagic Videohubと同様な形でルーティングを操作することも可能になるようだ。

大きさは縦46mm×横140mm×奥行き248mmと大体A5サイズ程度の1Uラック可能なサイズ感になっている。重量は1.05kgと大きさ相応の重さとなっている。わかりやすい比較になるかどうかは分からないが、RolandのV-160HDと横並びで使用した際のサイズ感は下記の画像のようになった。

価格については税込¥95,980(2024年2月時点)で他社の同様のコンバーターと比較してかなり安価な価格帯となっている。

  • SDI入力:3
  • SDIループ出力:3
  • SDI出力:3
  • SDIオーディオ入力
  • 16chのエンベデッドオーディオ
  • ビデオフォーマット:最大1080p60
  • 外部コントロール:RJ-45, 10Gb/sイーサネット, USBC

実案件での活用方法

2台以上の本機を接続して使用する一般的な使い方では10Gスイッチハブを用意する必要があり、本機以外にもハードウェアの準備が必要となる。ネットワークの設定については同社のマニュアルに記載されているのでサポートページを確認すると良さそうだ。

ここでは最もシンプルな構成で2台の本機を互いに接続してSDI延長機のように使用したいケースを取り上げてみる。3IN3OUTのSDI延長機のように使用するシンプルな構成であれば、ネットワークに関する知識がなくても電源とSDIビデオソースを接続しCAT6イーサネットケーブルで2台の本機を直接接続するだけで簡単に使用開始できる。

例えば比較的大型のホールでのオペレーションでカメラブースと映像配信卓が50m程度離れているケースを考える。カメラブースでは3台のカメラを利用して演者を撮影し、その映像を配信卓まで送り届ける。また、配信中のスイッチング映像やM/V映像をカメラブースでもリアルタイムで確認したい。

このようなケースで本機を利用するとこれまで何本ものケーブルをカメラとスイッチャー間で這わせる必要があったものが1本のLANケーブルだけで最大6本分の映像信号を送受信することが可能になるのだ。

具体的なシステム図を記載すると下記のようになる。
カメラの映像やPGM映像とM/V映像が全て本機を介して伝送されることで、非常にシンプルな構成になる。

伝送速度検証

2台のコンバーターを直接30mのLANケーブルで接続した状態で伝送速度による遅延がどの程度かを検証した。検証には100ms単位で表示を切り替えるウェブアプリケーションタイマーを活用して1080p59.94でどの程度のレイテンシーが発生しているかを本体のLCDディスプレイを撮影することで確認した。

何度か検証をしたところ、環境によるレイテンシーのズレは存在していたが2台のコンバーターを直接接続した条件下においてはおおよそ0.03s程度(2f程度)であった。また入力ごとに異なるレイテンシーが発生するかも合わせて検証したが、入力ごとのレイテンシの差は特になかった。

実際に検証をしている様子を収録してどの程度のレイテンシーが発生するのかを視覚的に確認できるような動画を作成した。タイマーだけでなく、比較的切り替わりの烈しい風景映像も検証映像として載せている。

レイテンシーは最小0.03s程度(2f程度)ということで一般的なセミナーやコンテスト等の配信では特に違和感なく利用できる範囲内かと思う。一方で音楽系や動きの烈しい配信など音声と映像のリンクが厳密に求められるような配信では少しレイテンシーが気になる人もいそうだ。

特にカメラマンへカメラの映像を送り返すと4f程度のレイテンシーが発生することになるので、ある程度のズレが発生することを頭に入れた状態でオペレーションを行いたい。

必要な機材量の変化

ある程度のレイテンシーはあるものの必要な機材量は大きく変化する。例えば配信卓とカメラマンの距離が50m程度離れている比較的大規模会場を想定する。従来であれば50mのSDIが6本必要だった現場が、本機2台とコンバーターとカメラやスイッチャーを接続するSDIケーブルのみで実現可能になるため、かなりコンパクトな機材運用が可能になりそうだ。

実際にどの程度必要なケーブルや機材の量が変化するかを検証してみた。あくまで50m程度の距離がある現場を想定した比較で使用するケーブルの種類によって大きく異なるが、右側が従来必要であったSDIケーブルの量で左側が本機を採用することで必要になる機材の一覧だ。

SDIケーブルを100m/5kgで計算すると、従来はSDI50m×5本=12.5kgに対して本機を採用することによりSDI3m×10本=1.5kg、本機×2個=2.1kg、シールドLAN50m×1本=2.5kgの合計6.1kgまで重量についても抑えることが可能になる。

もちろん、構成によって必要になる機材は異なるので一概には言えないが約半分程度の重量でコンパクトなケーブル類で運用が可能になるのは配信する側にとっては非常に嬉しい。

まとめ

SDIからST2110ベースのIPとIPからSDIを同時に変換できる双方向コンバーター「Blackmagic 2110 IP Converter 3x3G」についてレビューしてきたが、ある程度(最小0.03s程度)のレイテンシーが発生するものの、それを踏まえても必要な機材の量が減ったりSDI延長機として利用するのであれば非常に簡単かつ比較的低価格でIP伝送システムを構築できるのは非常に嬉しい。

本機を採用することでホールなどで複数本敷設していたSDIケーブルが不要になり、LANケーブル1本のみで完結することができるようになった。(複数箇所にカメラを配置する場合は例外)機材量の減少もそうだが、設営と撤収に必要な時間も短くすることができ、会場内通路に這わされるケーブルの量も最小限に抑えられるので依頼頂いたお客様にとっても嬉しいと好評だ。

筆者としては大満足のコンバーターであるが、レイテンシー以外で実際に利用して気になったのはLANケーブルの抜きづらさである。コンパクトな筐体に必要なSDI端子が配置されているためしょうがないかもしれないが、LANケーブルを抜く際に上のSDI端子と干渉してなかなか指だけで抜くのが難しいと感じた。

今後も様々な案件で本機を活用して更なる使い方を検証していこうと思う。また、今後もST2110 IPを活用した機材を同社からリリース予定であるとのことなので是非とも注目しておきたい。

パンダスタジオお台場で実施された2110 IPセミナーの映像がYouTubeに公開されているので合わせて確認しておきたい。